21.緩和ケア・ペインクリニック科

研修指導責任者:安部睦美

1)緩和ケア(緩和ケア病棟中心の研修)

(1)一般目標(GIO)

悪性腫瘍をはじめとする声明を脅かす疾患に罹患している患者・家族のQOL向上のために緩和ケアを実践することができる能力を身につける。

                                   

(2)行動目標(SBOs)

1)症状マネジメント

【態度】

①患者の苦痛を全人的苦痛(totalpain)として理解し、身体的苦痛だけではなく、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインを把握する。

②症状のマネジメントおよび日常生活動作(ADL)の維持・改善がQOLの向上に繋がるということを理解する。

③症状の早期発見、治療や予防について常に配慮する。

④症状マネジメントは患者・家族と医療チームによる共同作業であるということを理解する。

⑤症状マネジメントに対して、患者・家族が過度の期待を持つ傾向があるということを認識し、常に現実的な目標を設定し患者・家族と共有することの必要性を理解する。

⑥自らの力量の限界を認識し、自分だけでは対応できない問題について、適切な時期に専門家に助言を求めることを理解する。

【技能】

①病歴聴取(発症時期、発症様式、苦痛の部位、性状、程度、持続期間、増悪・軽快因子など)が適切にできる。

②身体所見を適切にとることができる。

③症状を適切に評価することができる。

④WHO方式がん疼痛治療法について具体的に説明できる。(鎮痛薬の使い方5原則、モルヒネの至適濃度の説明を含む)

⑤鎮痛薬(オピオイド、非オピオイド)や鎮痛補助薬を正しく理解し、処方することができる。

⑥薬物の経口投与や非経口投与(持続皮下注法や持続静注法など)を正しく行うことができる。

⑦オピオイドをはじめとする症状マネジメントに必要な薬剤の副作用に対して、適切に予防、処置を行うことができる。

⑧非薬物療法(放射線療法、外科的療法、神経ブロックなど)の適応について考慮することができ、適切に施行するか、もしくは各分野の専門家に相談、紹介することができる。

⑨患者のADLを正確に把握し、ADLの維持、改善をリハビリテーションスタッフらとともに行うことができる。

⑩終末期の輸液について十分な知識を持ち、適切に施行することができる。

⑪鎮静(セデーション)の適応と限界、その問題点について述べることができる。

⑫別表の疾患および症状、状態に適切に対処できる。(表1)

⑬以下の腫瘍学的緊急症に適切に対応できる。

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【知識】

①がん薬物療法に関するガイドラインを読む。

②呼吸器症状の緩和に関するガイドラインを読む。

③消化器症状の緩和に関するガイドラインを読む。

④苦痛緩和のための鎮静に関するガイドラインを読む。

⑤必要時、OxfordtextbookofPalliativecaremedicineを参考にできる。

⑥緩和ケア研修会に参加する。

 

表1

 

  • 疼痛

・がん疼痛・侵害受容性疼痛

・非がん疼痛・神経障害性疼痛

  • 消化器系

・食欲不振・嘔気

・嘔吐・便秘

・下痢・消化管閉塞

・腹部膨満感・腹痛

・消化管穿孔・吃逆

・嚥下困難・口腔・食道カンジダ症

・口内炎・黄疸

・肝不全・肝硬変

  • 呼吸器系

・咳・痰

・呼吸困難・死前喘鳴

・胸痛・誤嚥性肺炎

・難治性の肺疾患

  • 皮膚の問題

・褥瘡・ストマケア

・皮膚潰瘍・皮膚掻痒症

・がん性出血

  • 腎・尿路系

・血尿・尿失禁

・排尿困難・膀胱部痛

・水腎症(腎瘻の適応を含む)

・慢性腎不全

  • 中枢神経系

・原発性・転移性脳腫瘍・頭蓋内圧亢進症

・けいれん発作・四肢および体幹の麻痺

・神経筋疾患・腫瘍随伴症候群

  • 精神症状

・抑うつ・適応障害

・不安・不眠

・せん妄・怒り

・恐怖

  • 胸水、腹水、心嚢水

 

  • 難治性の心不全

 

  • その他

・悪液質・倦怠感

・リンパ浮腫

 

 

 

 

2)心理社会的側面

【態度】

①心理的反応

喪失反応が様々な場面で、様々な形で現れることを理解し、それが悲しみを癒すための重要なプロセスであることを理解する。また希望を持つことの重要性を知り、場合によってはその希望が治療目標になることを理解する。

②コミュニケーション

患者・家族の人格を尊重し、傾聴することの必要性を理解する。

③社会的経済的問題の理解と援助

患者や家族のおかれた社会的、経済的問題に配慮し、適切な社会的資源を理解する。

④家族ケア

家族の構成員がそれぞれ病状や予後に対して異なる考えや、見通しを持っていることに配慮でき、家族とは患者本人が大切に思っている人も含まれることを理解する。

⑤死別による悲嘆反応

主な死別による悲嘆反応は個々で異なることを理解する。

【技能】

①患者が病状をどのように把握しているか、さらに希望を把握し介入することができる。

②患者および家族に病気の診断や特に悪い情報、治療方針を適切に伝えることができる。

③返答の難しい質問や対応の難しい感情に対応できる。

④患者の自律性を尊重し、支援することができる。

⑤患者や家族の恐怖感や不安感を引き出し、それに対応することができる。

⑥遺族の悲嘆に対して個々に支援することができる。

【知識】

①がん患者の心理反応を説明できる。

②コミュニケーションスキルの方法を述べることができる。

③社会資源の内容を述べることができる。

④死別後の悲嘆について述べることができる。

⑤患者会、家族会への参加を行う。

 

3)自分自身およびスタッフの心理的ケア

【態度】

①チームメンバーや自分の心理的ストレスを認識する。

②自分自身の心理的ストレスに対して他のスタッフに助けを求めることの重要性を認識する。

③自分自身の個人的な意見や死に対する考え方が患者およびスタッフに影響を与えることを認識する。

④ケアの提供にあたって体験する自分の死別体験、喪失体験の重要性を認識する。

【技能】

①ケアが不十分だったのではないかという自分、および他のスタッフの罪責感をチーム内で話し合い、乗り越えることができる。

②スタッフのサポートを実践することができる

【知識】

①死や喪失体験についての心理反応を述べることができ、正常の心理反応といわゆる燃えつき反応の違いを述べることができる。

②スタッフサポートの方法論を述べることができる。

 

4)スピリチュアルな側面

【態度】

①スピリチュアルペインを理解する。

【技能】

①患者のスピリチュアルペインを引き出すことができる。

【知識】

①スピリチュアルペインを説明することができる。

 

診療にあたり患者・家族の信念や価値観を尊重し、「自己の存在の意味の消失」という想いを尊重し、患者のスピリチュアリティーが最大限表出できるように援助することができる。

 

5)倫理的側面

【態度】

①患者・家族の治療に対する考えや今後への意思を理解する。

【技能】

①倫理的な問題についてチームでのカンファレンスができる。

②倫理的な問題について検討できるツール(例えば臨床倫理4分割表)を使用することができる。

③チーム内で解決ができない問題については所属機関の倫理委員会に提出できる。

【知識】

①倫理的問題について述べることができる。

②臨床倫理4分割表について述べることができる。

 

6)チームワークとマネジメント

【態度】

①他職種のスタッフおよびボランティアについて理解する。

【技能】

①チームの一員として診療をすることができる。

②医師としてカンファレンスでの役割を果たすことができる。

【知識】

①チーム医療での医師の役割を述べることができる。

 

7)看取りの時期(予後2〜3日以内)における患者・家族への反応

【態度】

①患者が死に至る時期から死後までも、患者を人格ある存在として、尊厳を持って接する。

②看取りの時期の患者の状態を全人的に評価し、適切に対応する。

③看取りの時期および死別後の家族の心理を理解する。

【技能】

①看取りの時期の状態を適切に判断できる。

②患者と家族の意向を尊重し、患者の病態に合わせて中止すべき医療行為などを必要に応じて中止し、看取りに向けて必要な指示を出すことができる。

③看取り前後に必要な情報を適切に家族に説明し、その悲嘆に対処することができる。

④家族の意向に配慮して、死亡確認を適切に行うことができる。

【知識】

①看取りの時期の病態を説明することができる。

②死亡時に必要な事柄(死亡診断、死亡診断書の作成、死亡後に必要な処置、対処)を述べることができる。

 

8)研究、教育

【態度】

①臨床現場で起こる日常の疑問について、最新の知識を得るように心掛ける。

②緩和ケアに関する研究会に参加する。

③指導的立場であることを認識する。

【技能】

①全国学会に一年に1回は参加する。

②他職種へのレクチャーをガイドラインに沿って行うことができる。

【知識】

①学会や研究会開催について把握する。

②ガイドラインを熟読する。

 

9)腫瘍学

【態度】

①腫瘍学についての知識を身につける。

②各分野の専門家と協力して患者の診察を行う。

【技能】

①キャンサーボードに参加し、意見を述べることができる。

②一般的に行われている化学療法のレジュメンについて述べることができる。

【知識】

①一般的に使用されている抗がん剤治療について理解する。

 

(3)方略(LS)

LS1:On-the-jobtraining(OJT)

1)1ヶ月以上学習項目

①身体的苦痛への対応

②精神的苦痛への対応

③社会的靴への対応

④スピリチュアルペインへの対応

⑤倫理的問題への対応

⑥家族ケア

⑦コミュニケーションスキル

⑧他職種との連携

⑨緩和ケア領域におけるEBM

 

①身体的苦痛への対応(1〜3週目)

A:身体症状のアセスメント(問診、診察、検査、画像診断)(1)

B:疼痛(鎮痛剤、鎮痛補助薬、神経ブロック、放射線治療、その他)(1)

C:呼吸困難(2)

D:消化器症状(3)

②精神的苦痛への対応(1〜3週目)

A:不安(1)

B:抑うつ(2)

C:不穏・意識障害(せん妄)(3)

③社会的苦痛への対応(3週目)

A:MSWの役割

B:社会的資源

C:保険(介護保険など)

④スピリチュアルペインへの対応(2週目)

「患者自身の存在」の意味をともに考え、傾聴し、寄り添うことができる。

⑤倫理的問題への対応(2〜3週目)

A:鎮静(2)

B:DNAR(3)

⑥家族ケア(4週目)

A:家族との関わり方

B:OPTIMの理解

C:グリーフケア、予期悲嘆の理解

⑦コミュニケーションスキル(1〜2週目)

A:病状説明の方法(1)

B:BadNewsの伝え方(1)

C:他科へのコンサルテーションの方法(2)

⑧多職種との連携(1週目)

A:薬剤師

B:リハビリテーションセラピスト

C:管理栄養士

D:音楽療法士

E:ボランティア

⑨緩和ケア領域におけるエビデンス(1〜4週目)

A:症例に応じた文献検索

B:文献抄読

 

LS2:勉強会・カンファレンス

1)多職種カンファレンス

2)ミニカンファレンス

3)ミニレクチャー

 

LS3:院外研修(学会参加等)

1)関連学会への参加、発表

 

【週間スケジュール】

 

午前

回診

ミニカンファレンス

病棟業務

ミニカンファレンス

回診

ミニカンファレンス

回診

ミニカンファレンス

病棟業務

ミニカンファレンス

13:00〜13:30

 

多職種

カンファレンス

多職種

カンファレンス

 

多職種

カンファレンス

午後

病棟業務

ミニカンファレンス

病棟業務

ミニカンファレンス

病棟業務

ミニカンファレンス

ボランティア研修

ミニカンファレンス

病棟業務

ミニカンファレンス

レクチャー

除痛ラダー、レスキューの使い方、オピオイドローテーション、緩和ケアにおける栄養管理、

他職種との連携(音楽療法士、薬剤師、栄養士、リハビリセラピスト)、呼吸困難、消化器症状、鎮静など

1)通常の回診に加えて、患者の状態に合わせて適宜診察をする。

2)多職種カンファレンスに積極的に参加し、他の職種の意見からも学ぶ。

3)患者を看取るときに共にいることを心がける。

 

 

2)ペインクリニック

(1)一般目標(GIO)

ペインクリニックにおける対象疾患、および神経ブロックにおける必要な局所神経解剖について学び理解する。簡単な神経ブロックが安全に効果的に行えるように習熟する。また、がん疼痛を含めた難治性慢性疼痛患者の管理を精神的アプローチも含めて学ぶ。

                                   

(2)行動目標(SBOs)

1)急性痛について診断と治療計画を立てることができる。

【態度】

①急性痛を来す疾患を経験する。

②急性痛を来す疾患に対して適切な治療を行う。

【技能】

①星状神経節ブロック、硬膜外ブロック(持続、埋め込みを含む)、トリガーポイントブロック、末梢神経ブロックができる。

②神経ブロックの合併症に対応できる。

【知識】

①急性痛を来す疾患を述べることができる。

②適応となる神経ブロックを述べることができる。

③各神経ブロックの合併症を述べることができる。

④ブロックを行う場所の局所解剖について述べることができる。

 

2)慢性痛について診断と治療計画を立てることができる。

【態度】

①慢性痛を来す疾患を経験する。

②慢性痛を来す疾患に対して適切な治療を行う。

③慢性痛においては心理的苦痛が大きいことを理解する。

【技能】

①星状神経節ブロック、硬膜外ブロック(持続、埋め込みを含む)、トリガーポイントブロック、末梢神経ブロックができる。

②神経ブロックの合併症に対応できる。

③適切な薬物療法ができる。

④患者の苦痛を傾聴できる。

【知識】

①慢性痛を来す疾患を述べることができる。

②適応となる神経ブロックを述べることができる。

③各神経ブロックの合併症を述べることができる。

④ブロックを行う場所の局所解剖について述べることができる。

⑤適切な薬物療法について述べることができる。

 

(3)方略(LS)

LS1:On-the-jobtraining(OJT)

1)指導医および上級医の指導のもと神経ブロックを行う

 

LS2:勉強会・カンファレンス

1)症例カンファレンス

 

LS3:院外研修(学会参加等)

1)関連学会への参加、発表

 

3)評価(EV)

1)形成的評価(フィードバック)

(1)知識(想起、解釈、問題解決)については随時行う。

(2)態度・習慣、技能についても随時行う。

2)総括的評価

(1)研修医による自己評価

EPOC(臨床研修評価システム)による評価。

各診療科の研修終了時に研修医は研修評価書に自己評価を記入し医師支援室へ提出する。

(2)臨床研修指導医による評価

指導医は研修医の研修評価について指導医評価を行い、研修医の到達目標達成を援助する。

また、研修医より提出された症例レポートについて評価を行う。

研修終了後、「臨床研修指導医による研修医の態度評価」を記入し医師支援室へ提出する。

(3)臨床研修指導者による評価

当院独自の「臨床研修指導者による研修医の態度評価」を用いて研修医及び指導医の評価を行う。

(4)研修医による評価

 EPOCへ診療科全体(指導内容、研修環境)の評価を行う。